詩 夕刻
夕刻の凪きょうのひの暮れに
あなたが
しとどに濡れる はずがない
いつか出逢う さだめを待ち
おどけながらも 口づけた昨日と
手繰り寄せた 片側を
産み落とされた さみしさを
手を振った わびしさを
こうべを垂れた 瞬間を
祈り捧げた夜半を
抱き いきるあなたは
詩 トゥナイト
今夜は
蛮勇でも みじめでも おやすみなさい
た易く 流れ星に乗れるように
遠いあこがれ 枕に敷いて
あかりを消したら おやすみなさい
詩 虹
おとなになり
極彩色の地は
だれかへの道を無限大に示し
あなたにも 出逢ったのに
それなのに
いっこうに慣れません
折に触れてわきおこる
喜びに かなしみに さみしさに うれしさに
いまでも わたしは
詩 ミッドナイト・ヴァケーション
小指絡めて逃げだしましょう 喧騒から
夜明けは来ないからこのままふたりは
ミッドナイト・ヴァケーション
詩 寝床
そっと 撫でるように
あなたの寝床に滑り込む
何か欲しいわけでも
足りないわけでもなく ただ
温度ともつかぬ 寝息も立てず
聞こえる 生活のリズムの中
秩序の保たれたやさしさに
からだごと溶け込むために
朝が来て 街が目覚める前に
あなたの寝床に滑り込む
詩 駆ける
数多の夜を越え
夜を越え
越えて
野を駆け 足早に 踏み締め 草木の 朝夕の
月夜の 風の如く 星の如く 活きる
その身のうつくしさ知らぬ
駄馬と呼ばれる者たちよ
幾多の夢を追い
越えて
辿り着くことすら忘れ
求めることすら薄れ
充ちたりることからも逃れ
ふと立ち止まれ
この夜を越えて
野を駆け
あなたの愛のもとへ
駆けることすら
忘れて
詩 願い
この ことばたちは届かずに
体躯を浸し深く沈み
降り積もる
けれども
ほんとうにたいせつなおもいは
微かな音を伴って
震えを以て
まるで 生まれたその日のような
無垢をはらみながら
たったひとことだけでいい
湧きあがりながらも ため息のように 吐く
そのふるえにしか
通れない道がある
だれかの海へ続く ひとすじを
滑り抜け溶けまじるために
もしも 願いが 届くなら